kurochan@PC、2014-12-15
■「ネットDE真実」?
数年前から、「インターネットで、学校では教えられない世の中の真実を知った」と友達に自慢したり、作文を書いたりする生徒が見受けられるようになってきています。中高生よりも時間的に余裕のある大学生などの若者たちの方が、そうした「ネットDE真実」信者が多いようですし、もっと年長の世代でも、インターネットに浸ることが多い人の中に、こうした傾向の人が多々見受けられます。
もっとも、「アラブの春」に代表されるように、ツイッターなどで真実を告発し、圧政と闘って政治を大きく動かす力を発揮した例もありますが、一方で、「在日特権」や「被災地の外国人窃盗団」などというデタラメを真に受ける「ネットDE真実」信者が、「善意や正義」のつもりで「悪意と差別」を拡散する例も繰り返されています。これは、特に若い世代の保護者や教員にも少なからぬ影響を与えていると思われます。近隣諸国への口汚い罵倒は電子掲示板やSNSにあふれかえり、そのまま新刊本タイトルや雑誌や一部夕刊紙のコピーとなって、書店や通勤・通学列車の吊り広告として子どもたちを苦しめ、歪んだ意識を植え付け続けています。まるで開戦に向けた悪夢の世論誘導のようです。
ネット上で飛び交うデタラメの「在日特権」とは何か?在日朝鮮人は「無税」「公共料金無料」「NHK受信料無料」「国民年金保険料免除」「生活保護優遇で働かなくても年600万円もらえる」なとどいうとんでもない嘘が数々あり、特別永住資格や通名使用についての歴史的背景や差別の実情を無視する暴論もあります。YouTube動画テロップの意図的改ざんで「韓国有名芸能人の暴言」を捏造するものが拡散したり、「被災地で外国人が殺人・強姦をしている」などという混乱と不信を深めるツイートが繰り返しリツイートされるなどの、外国人への憎悪をあおる極めて悪質なものも繰り返し現れています。その他マイノリティを侮蔑する悪質な嘘が多々あり、こうしたデタラメがいかに当事者を傷つけ、日本人の「共に生きる姿勢」をくじいているかにはお構いなしで、「熱心に」差別をあおる嘘をばらまき続ける人が存在します。こうした歪んだネット情報しか信じない人たちを「ネトウヨ(ネット右翼)」と呼ぶことがあり、従来の伝統右翼とは区別しています。最近では護憲発言を繰り返す天皇に対しても攻撃する動きをみせているのが「ネトウヨ」です。
■ヘイトクライム
そうした悪質なネットの闇からそのまま現実社会に飛び出してきたのが在特会の暴挙に代表されるヘイトクライムです。マイノリティに対する差別言辞(ヘイトスピーチ)・それに伴う暴力行使・撒き散らかされる歴史捏造やデマ・そのための結社は、全世界の多数の国々で罰せられますが、日本は人種差別禁止法がなく、人種差別撤廃条約を批准しているものの肝心の条項を留保しているため罰せられません。留保理由は「取り締まるべき差別実態がない、表現の自由に抵触する恐れがある」というものですが、差別実態はあり、表現の自由を守るためにこそ規制すべきです。ヘイトスピーチはマイノリティに沈黙を強いるものであり、マイノリティの表現の自由を守るためにはヘイトスピーチは規制すべきというのが世界の論調です。東京都国立市議会・愛知県名古屋市議会に続き、奈良県議会も2014年10月6日、「ヘイト・スピーチ(憎悪表現)に反対しその根絶のための法規制を求める意見書」を議決しています。
在特会は、「在日特権を許さない」と吹聴し、ネットを駆使して、差別と排外主義を撒き散らしています。関東大震災時の大量虐殺事件を再現させかねない朝鮮人・中国人への殺害煽動までが、街中で拡声器を使ってなされ、こうしたヘイトスピーチは在特会自らも、ネットで誇示して会員獲得をもくろみ、ニュース報道などでも全世界に知らされて世界の怒りを買う事態となり、国連諸機関からも再三にわたって取り締まりや法規制を求める勧告が出されるに至っています。
在特会による京都朝鮮第一初級学校への差別街宣事件(2009年12月~)は、刑事訴訟で有罪が確定し、民事訴訟でも人種差別であると最高裁が判断して、1200万円余の損害賠償命令や民族教育権侵害が確定しました(2014年12月)。奈良においても、水平社博物館前の差別街宣(2011年1月)の民事訴訟で差別と認定され150万円の損害賠償を奈良地裁が命じ(2012年6月)、確定しています。これらの裁判の意義は大変大きいのですが、実際の差別街宣はほぼ毎日の割合で頻発し、ネット上にその様子が動画や文章で大量に出まわっており、子どもたちや保護者なども容易にアクセスでき、ネット情報がゆえに拡散もまた容易となっています。
■人権ベースのネットリテラシー
さて、ここで必要になってくるのが、「人権ベースのネットリテラシー」です。ネット情報は「面白い」かどうかで判断するのではなく、「嘘か本当か、情報が流される目的は何か、誰かが傷つかないか」を見極める力が必要だということです。子どもたちが直面するネットいじめや様々なネット被害・加害対策にも通じるものであり、正しい判断力と表現力を育む必要があります。また差別やいじめに荷担しなくても人として大切にされる環境も大切です。そのために、部落差別とは何か、在日外国人差別とは何か、近隣諸国と日本の近現代史はどのようなものであったか、マイノリティー当事者の苦痛と願いはどのようなものかなど、個別の差別問題や、「ネットDE真実」の弊害をきちんと学ぶ必要があります。そして、その前提として、まず教員や保護者自身が、「ネットDE真実」の落とし穴にはまらず、自らの差別偏見をただしていく学びが必要であり、その姿勢そのものが子どもたちの学びとなるでしょう。
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